ぼくは感情を殺した。ぼくは感情を封印した。ぼくは感情を拘束した。ぼくは感
情を束縛した。結局、ぼくは感情を消した。
「いいな、私もそんな感情が欲しいわ」
彼女は言う。白く細い指を髪に絡めて、微笑みながら。
「ぼくは感情なんて無い」
「そうかしら?」
「ぼくは感情を殺した」
「得たのは?」
そう問う彼女は楽しそうに紅茶を飲む。ぼくは感情を殺して得たものを考える。
彼女はシフォンケーキにクリームを絡ませ口に運ぶ。ぼくは感情を消して得たも
のを考える。彼女は紅茶を飲み、ぼくを見据えた。
「得たものは“無感情”」
「無感情?」
「結局は感情の延長線なのよ」
「感情の延長線…」
それじゃあ、ぼくは完全に感情を殺せてないじゃないか。完全に感情を消してな
いじゃないか。完全に拘束出来てないじゃないか。
「感情を消したいなら自分を辞めるか、人を辞めるかしかないと思うの」
「どういう意味?」
「ご馳走様。ケーキとても美味しかったわ勿論紅茶も」
彼女は席を立ち、帰る身支度をし始める。ぼくは焦り彼女を引き留めようとする
。
「貴方はまだ知らないことが多いのよ。裏表、白と黒、光と闇、全て自分なりの
答えを持ったとき感情も何もかも殺したくなるわ」
「意味が分からない」
「貴方にはまだ分からないという感情があるって意味よ」
彼女は半ば言葉を投げるかのように、そう言い部屋を出た。ぼくに感情を残して
。
後日、彼女が薬物による自殺でベッドに綺麗に横たわる知らせが届いた。彼女の
机にあった紙には“つまらない”と一言書いて置いてあったらしい。
ほら、涙が出てくる。だから感情は嫌いなんだ。彼女も感情なんて無ければ死ん
でいなかったかもしれないのに。
結局、ぼくは無感情という感情の所為で泣き続けた。
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