「それは間違いよ」
君は言うんだ。答えを求めないぼくに、答えを拒むぼくに、植え付けるかのように強く凛と。
「間違いなの」
言葉さえ聞かなければそれは綺麗だったろうに。答えなんて要らないというぼくに無理矢理、答えを押し付けなければ。
「だから何」
「だから、貴方は間違いなのよ」
「それで?」
「わたしが正解」
勝ち誇ったかのように言うんだ。憎くて堪らない。殺したくて堪らない。何度君の死を願ったか。…何度、君は死を願われたか。
「死ねばいいのに」
「499回目だわ、その言葉」
「それでも君が正解?」
「そうよ」
「そう思わなきゃ、生きていけないもんね」
次の日、君は<わたしは間違いでした>なんて紙を残して消えた。ニュースで君の死を知るのにはそう時間は掛からなかった。
「あと1回で500回目だったのにね」
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この世界をどの視線から見たってわたしたちはただの人にしかすぎないと思う。しかし、この何億人もの人々の中にたった数人だけ神の子が落ちるとしたら、それは
「わたしだ」
わたしは神の子である。理由はわたしが神の子でありたいから。
神は男である。神の世界は一夫多妻制であるため一日にひとりは子供が産まれるんだ。そのうちの人間らしい子供は下界に落とされる。それが運命。
そして、それをわたしが望んだ。
「神なんて居やしないのよ」
「捨てられてもわたしの父上よ」
「あなたのお父さんは居るでしょ」
「あれは偽者よ」
「じゃあ、お母さんはなんだっていうの?」
「わたしはあそこの家族に落とされたの。だから皆、偽者」
溜息をつくと、更にわたしの答えに問いた。
まるでわたしがおかしくて、尋問するかのように何度も、何度も。わたしが神の子だなんて嘘と言い、神なんて居ないと言い、現実を見ろと言う。
「そもそも見たこともなんでしょ?そんなのおかしいわ」
何がどうおかしいのだろう、教えて欲しい。わたしはどうしてそんなに自分の父上のことについて否定されなければならないのだろう。
「あなたはあなたの母親のお腹から産まれてきたの。もちろん私も」
そうだ。わたしはわたしの母上のお腹から産まれてきた。しかし、母上は父上と共に一緒に居る。つまりここには居ない。わたしが生まれてすぐわたしはここに落とされたのだ。
「単なるそれは逃げてるだけよ」
「それじゃあ、わたしの両親を見せてあげようか」
「あなたの父上、ああ神だったかしら?」
嘲笑うかのように父上のことを呼ぶ。
わたしは知っている。わたしがこの世界に落とされたのはこういう人間を裁く為なのだと。父上を信じないものをいちからやり直させる為なのだと。だからわたしはここに落とされた。きっと、わたしを含めほんの少しだけ散らばっているだろう神の子。その人たちも同じ使命を負い、父上の権力を思い知らせるのだ。でもそれを出来るのは優秀な神の子のみ。親元を離れても生きていける精神力と、判断力、そして忠誠心。わたしは父上を愛している。
「じゃあ、いってらっしゃい」
響き渡る悲鳴。彼女は父上に会いに行った。愛に逝った。でもまたこの世界に戻れるかはあなたが優秀だったらね。わたしみたいに。
「わたしは神の子だ」
「世界がぼくらを作っている?」
はん、と鼻で笑う。
それが気に入らなかったのか、向かいのソファに座る眼鏡をかけ、顔以外地肌が見えない服装をした奴の眉間に皺が寄る。
「それでは貴方はどう思うのです?」
「ぼくらが世界を作ってやってんだ」
「それは可笑しいです。世界がなければ私達は存在できません。世界があってこそ、私達がいるのです」
「まあ、そりゃー正論だ」
「分かっていただけましたでしょうか」
テーブルの上にある、紅茶を注いだカップを持ち微笑むとそのままカップを口に持っていき、一口、一口と味わうように飲む。
その仕草を見届けたあと、ぼくはテーブルにあった菓子をつまむ。
「おちつけ、だからそれは正論だ」
「…では、それ以外に何があると言うのです?」
「確かに世界がなけりゃ、ぼくたちは存在しない」
お気に入りのピアスを弄りながら片手の菓子を頬張る。自然に笑みがこぼれてくるのが分かった。
「何が面白いのです?」
「そうだ。面白みだ」
「面白み…?」
「ぼくらが世界を作った、って思わないと面白みが無い。世界がぼくらを作ったって時点でぼくらは終わってんだ。ぼくらの可能性はそこで終わり。作られたらあとは言う通りに聞くしかないだろ?けど、ぼくらが作ったって考えりゃ、可能性はいくられも膨らむ。それこそ面白いほどにな。大体、つまらねぇだろ、ぼくらが作られたなんて考え」
「それが貴方のこたえ、ですか」
「まあ、一応はな」
ふう、と溜息を付くと鞄から紙を出し、ぼくに差し出した。
「いいでしょう、認めます」
「その世界観、忘れないでくださいね」
その日、彼は神になった。